東洋医学の現場から

【高齢化社会】男性の冷え症にご注意

当帰四逆加呉茱萸生姜湯が有効だった高齢男性の2例

徳川家康 雪女
~見かけは徳川家康、中身は雪女~
今年の日本東洋医学会に発表した症例です。
磯村クリニック

■ Dさん(74歳)男性のケース

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4年前より両側の座骨神経痛に悩んでおり、整形外科やペインクリックで治療を受けますがはかばかしくなく、漢方治療を求めて受診されました。28歳の時交通事故で右下肢を切断されていますが、ころころ太ったごま塩頭の陽気な男性で、暑がりでいつも汗をかいています。

比較的丈夫な方の加齢による不調に使用する牛車腎気丸と桂枝茯苓丸を投与し、当初は神経痛は改善していました。しかし、その年の9月より再び悪化。薬を変えて投与しますが、いっこうに効きません。

ある日お腹を触って腹診をしていると、「先生の手は暖かくて気持ちがいいなあ」とのこと。「!もしかしてこの方、冷え症?」始めて思った瞬間でした。その方のお腹が冷たいのは、汗をかいているせいだと思っていたのです。

冷え症の華奢な女性に投与することの多い当帰四逆加呉茱萸生姜湯を投与したところ、みるみる痛みは改善していきました。聞いてみるとその年は猛暑のため寝る時も冷房をかけっぱなしで、帰省の電車でも強い冷房がかかっていたとのことです。漢方診療での虚実判定(体質や病態の強弱の判定)の難しさを実感させられた症例でした。

■ Eさん(80歳)男性のケース

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2年前より下半身の冷えに悩んでおられます。さる大病院より、比較的丈夫な高齢者の冷えに使用される八味地黄丸を投与されますがいっこうに効果を現さないため、不機嫌な様子です。年齢にしては体格のよい個人企業の経営者タイプで、後ろに専務のご子息を従えています。4年前胆管がんが見つかり手術を受けていますが回復されています。どの様に冷えるのですかとお聞きしたところ「アルツハイマーを患う妻を散歩に連れ出す時、冷たい風にあたると陰嚢が縮み上がる様に冷える」とのこと。

Dさんに使用した当帰四逆加呉茱萸生姜湯は冷えによる諸症状に使用されますが、陰部を通る経絡(体のエネルギーの通り道のこと)に関連した症状にも有効とされています。当帰四逆加呉茱萸生姜湯投与2ヶ月後、「相変わらず足は冷えるけれど、あのギューッと縮み上がるような痛みは無くなった」とのこと。Eさんが老いた糟糠の妻の手を取って散歩される様子が目に浮かびました。

当帰四逆加呉茱萸生姜湯は冷えによる諸症状に使用される薬で、その有効例は圧倒的に冷え症の華奢な女性に多いとされてきました。一方、Eさんが当初投与されていた八味地黄丸は、徳川家康がアンチエイジングのために自分で作って飲んでいた薬で、Dさんが当初飲んでいた牛車腎気丸も八味地黄丸によく似た薬です。

DさんEさんは見た目は徳川家康の様に丈夫そうな高齢者ですが、その内側には雪女の様な冷えが隠れていたということです。

生来丈夫な男性でも、高齢になったり、Dさんのような大怪我やEさんの様に外科手術を受けることで経絡が途切れることで、冷え症に傾いていく事を示しています。

これからの高齢化社会では、当帰四逆加呉茱萸生姜湯の有効な男性は今後は増えていくかもしれません。

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